ニック・マークスが語る「地球幸福度指数」

ニック・マークスが語る「地球幸福度指数」

 

統計学者のニック・マークスが、なぜ我々は国の成功を「国民の幸福と福利」ではなく「国の生産性」で語るのかと問いかけ、地球幸福度指数(ハッピー・プラネット・インデックス、HPI)を紹介します。

以下、日本語翻訳全文です。5つの幸せになる提言などは普遍的で、いま最も日本人に必要な大変素晴らしい要点だと思います。

マーティンルーサーキングは公民権運動を鼓舞する際に「私には悪夢がある」とは言いませんでした。「私には夢がある」と言ったのです。
そして私にも夢があります。
未来に悪夢が待ち受けているなんてことを考えなくてすむようになりたいという夢です。これは大きな挑戦です。
近年の大作映画を見ればそのほとんど全てが終末論的な見方で人類を描いています。「ザロード」は最近の映画の中で観るのが最もつらい作品の一つです。美しい映画ですが全てが荒廃して死に絶えています。一組の父親と息子だけが生き延びようと道を歩いていきます。
私も関わっている環境運動はこの終末論的な未来を描くことに加担してきました。
あまりに長い間何が起きるのか悪夢のような見通しを広めてきたのです。
最悪のシナリオや問題に焦点を当て十分に解決策を考えてきませんでした。言うなれば恐れを使って人々の関心を引いてきたのです。
心理学者なら恐怖は逃走に結びついていると言うでしょう。
動物は怯えた時争ったり逃げたりします。例えば鹿はいつでも逃げ出せる準備をしてじっと動きを止めます。私たちも同じことをしています。
人々に環境悪化や気候変動といった課題に関わるよう求めると固まって逃げ出してしまいます。恐れに訴えかけているからです。環境運動は自らを見直して前進とは何かを考えるべきです。人々の運命を好転させるとはどういうことなのでしょう?
我々が直面する問題の一つは前進という意味で市場を追い詰めたのが金融的、経済的な意味での前進だということです。つまり株価でもGDPでも経済成長でも数値の上昇が豊かさとより良い暮らしにつながると考えられているのです。多いことは良いことだというのは人間の恐れではなく欲望に訴えかけます。
でも待って下さい。
西洋にいる我々はもう十分豊かです。世界には豊かでない地域もありますが我々は違いますそれにこうした数字で国の繁栄ぶりが測れるわけではないことも知っています。
実際アメリカの会計システムを設計したサイモンクズネッツは1930年代に言いました。
「国の繁栄は国民所得ではほとんど測れない」と。
でも我々は生産と製造に基づく国の会計システムを作り上げました。時流に合っていたのでしょう。
第二次大戦中多くの物を生産しなければなりませんでした。実際ある種のものを作るのがあまりに上手かったためヨーロッパを大きく破壊し後に再建しなければなりませんでした。それで国の会計システムは生産にこだわるようになったのです。
でも1968年には先見の明のあるロバートケネディが不運にも暗殺で終わる大統領選キャンペーンの初期に国民総生産をかつてないほど雄弁に否定しています。彼は演説の終わりにこう述べました。「国民総生産は全てを測ることができる人生の価値を高めるもの以外は」。
何ということでしょう。我々が社会の進歩を計測する指標はあらゆるものを測りますが人生を価値あるものとするものは測れないのです。もしケネディが生きていたら私のような統計学者に何が人生を価値あるものとするのかを見つけ出し国の会計システムを社会正義や持続可能性人々の福利といった重要な指標に基づくものに作り直そうと言うでしょう。
実際社会科学者たちは世界各地でこうした質問をしています。
これはある世界調査の結果です。人々の望むものを聞いています。驚くことでもありませんが世界中で人々は自分自身や子ども家族やコミュニティの幸せを望んでいます。お金はほとんど重要でないと考えています。お金のことも考えていますが幸福や愛ほど重要ではありません。我々は皆愛し愛されることを望んでいるのです。お金はまた健康ほど重要でもありません。皆健康で充実した暮らしを送りたいのです。これらは人間が自然に持つ願望です。
ではなぜ統計学者はこれらを計測しないのでしょう?
なぜ我々は国の進歩を測るのにモノの豊かさではなくこれらの指標を使わないのでしょう?
私は大人になってから幸福の測り方を考えてきました。環境的な制約を考慮に入れながら幸福を測る方法です。そして今の職場である新経済財団で地球幸福度指数という指標を作り上げました。人間も地球も幸せであるべきだと私は思います。だから両者を組み合わせた指標がいるのです。
私たちは国が生み出す最終的な成果とは市民が幸せで健康な暮らしを送れるようにすることであると考えました。地球上にある全ての国はそれを目指すべきです。でもその際に忘れてはならないのは我々は地球の資源をどれ程使っているのかということです。
地球は一つです皆で共有しなければいけません。皆で共有するたった一つの地球、これは究極の希少資源です。
経済学では希少性に注目します。希少な資源から望ましい結果を生み出したいのであれば効率を考えなければなりません。投資に対する見返りを考えないといけないのです。このようにして地球資源の利用に対する幸福の産出量を測るのです。効率を測るということです。
このグラフを見るのが一番わかりやすいでしょう。グラフの横軸は「エコロジカルフットプリント」です。資源の使用量と地球への負荷を示しています。数値が大きいのは望ましくありません。縦軸は「幸せに生きられる年数」を示しています。国の福利に関することです「幸せ」をかけ合わせた平均余命のようなものです。国における人生の量と質を示したものだとも言えます。
黄色い点が世界の平均値です平均値の周辺に多くの国があります。グラフの右上にあるのは上手くやっていて幸福を生み出しているけれど、そのために大量の資源を使っている国々です。アメリカやヨーロッパ諸国一部の湾岸諸国などがここにあります。
それとは反対にグラフの左下は幸福をあまり生み出していない国、サハラ以南のアフリカ諸国などです。ホッブズの言葉を借りれば人生が短く過酷な地域です。これらの国々の多くでは平均寿命がたったの40歳ですマラリアやエイズが大勢の人々の命を奪っています。
でも良い知らせもあります!黄色い三角形で示された国々は世界平均よりも上手くやっていてグラフの左上に来ています。これは野心的なグラフです。
左上では地球を犠牲にせず良い暮しが行われています。ラテンアメリカです一番上にある国には私は行ったことがありません。皆さんの中には行かれた方もいるでしょう。コスタリカです。
コスタリカでは平均寿命は78.5歳、アメリカよりも長く最近のギャラップの世界調査によれば地球上で一番幸せな国ですスイスよりもデンマークよりも幸せなのです。しかもそれをヨーロッパ諸国が使う資源の四分の一の量しか使わずに実現しています。四分の一ですよ。
コスタリカでは何が起きているのでしょう?いくらかデータがあります99%のエネルギーは再生可能な資源から生み出されています。2021年までにカーボンニュートラルを実現すると約束した最初の国の一つでもあります。1949年には軍隊を廃止しました。1949年ですそして健康や教育といった社会プログラムにお金を使っています。コスタリカの識字率は世界最高の水準です。しかもラテンの気質を持ち社会とつながっています(笑)。
我々はよく考えなければなりません。未来に向けて目指すべきは北米や西欧型の社会ではなくラテンアメリカのような社会かもしれないのです。大変なのは世界の平均をここに引き上げることです。そのためにはグラフの下方にある国々を引き上げ右側の国々を左に引き寄せなければなりません。そうすれば幸せな地球作りを始められます。それが一つの見方です。
もう一つの見方は時間ごとの変化を追うことです。全ての国の過去データがある訳ではありませんが、OECD諸国の豊かな国についてはあります。幸福度は少し上昇しましたがエコロジカルフットプリントはもっと増えています。地球幸福度の手法からわかるのは我々は究極の希少資源を使って望ましい結果を引き出す活動をより非効率にしか行えないようになっているということです。
重要な点は恐らくここにいる誰もが、終末論的な何かが起こることなく西暦2050年の社会を迎えたいだろうということです。
はるか遠くのことではありません。人の半生分の長さです。今年小学校に入る子どもが私の年齢になるのが2050年です。遠い未来の話ではありません。
イギリス政府の温室効果ガス削減策はこれぐらいの期間で考えられています。つまり通常のビジネスとは違います2050年を視野に入れるとビジネスや組織作り政策や自分たちの生活のあり方が変わるのです。
大切なのは幸福を増やしていかなければならないことです。選挙で暮らしの質が下がってもよいなんて言える人はいません。人類の進歩が止まってもよいと考えている人もいないでしょう。先に進みたいもっと豊かになりたいと思っているはずです。
ここに気候変動の懐疑論者が入り込んできます。暮らしをさらに高めて行きたいと考え得たものは失うまいとしているのです我々はそうした人々とも上手くやっていかねばなりません。そのためにはさらに効率を高める必要があります。グラフを描いたりするのは簡単ですが、大切なのは曲線の向きを変えねばならないということです。
そこで参考にできるのが、システム理論やシステム技術者が考え出した正しい情報を正しい時に使うフィードバックループです。人間は「今」に動機づけられるものです。家に小さなメーターを取り付けて今どれほどの電気を使っているのか電気代がいくらなのかが見えたなら、子どもたちはすぐに電気を消しに行くでしょう。
それを社会全体で考えたらどうなるでしょう?ラジオのニュースでは毎晩株価や為替の情報が流れていますが、私にはポンド高とポンド安どちらが良いのかさえわかりません。私にはそんなニュースは要りません。イギリスやアメリカでの昨日のエネルギー使用量についてのニュースを聞きたいものです。
炭酸ガスの排出を毎年3%削減するという目標は達成されたのかといったニュースです。そうすれば集合的な目標を作ることができます。それをメディアに載せて考えるのです。
一方で幸福度を向上させるにはプラスに働くフィードバックループが必要です。政府レベルでは福利の国家会計システムの構築などですビジネスでは従業員の福利を考えるのです。それは創造性とイノベーションに深く結びついています。そして環境問題に取り組むためにはさまざまなイノベーションが必要です。それらは個人レベルでも必要とされています。
データというよりもリマインダーが大事です。イギリスでは公衆衛生に関する強力なキャンペーンがあります。1日に野菜と果物5種類をというものです。必要な運動量も示されていますが、私はあまり出来ていません。
これらは幸せとどう関係しているのでしょう。より幸せになるために毎日すべき5つのこととは何でしょう?
数年前政府の科学庁とともに展望プログラムという大規模な調査をしました。多数の専門家を含む大量の人々が参加し証拠に基づいた巨大な報告書ができました。
「幸福度の向上につながる5つの行動とは何か?」というのが我々のテーマでした。
重要なのは5つの行動は幸せの秘密という訳ではなく、それらを通じて幸せが生み出されてくるのだということです。
まず最初はつながること。つまり社会での関係が暮らしの中で最も重要な基礎になるということです。時間やエネルギーを愛する人とともに使っていますか?これからもそうして下さい。
2番目は活動的であること悪い雰囲気から抜け出す最速の方法です。外に出て散歩をしラジオをつけて踊るのです。活動的であるとポジティブな気分につながります。
3番目は注意を払うことです。世界で起きていることや季節の移り変わり、周りの人々などをどれほど気にかけていますか?自らの中で泡立ち、現れようとしているものに気づいていますか?いくつもの証拠から考えて注意深さや認知行動療法は、幸福と強く結びついています。
4番目は学び続けることです。続けるというのが重要です。一生を通して学び続けるのです。好奇心を持ち学び続ける高齢者は、人生の幕引きをはじめた人よりもずっと健康です。正規の学習である必要はありません。知識ベースではなく好奇心によるものです。新しい料理を覚えるということでもいいし、子どもの頃できなかった楽器に取り組んでもいいのです。学び続けてください。
そして最後の一つは最も非経済的な行動ですが、与えることです。寛大さや利他主義そして同情など、これらは全て脳内の報償のメカニズムと深く結びついています。与えると良い気分になります。2つのグループに100ドルずつあげるという実験があります。片方には自分たちのためにもう一方には他人のために使うよう言うのです。その日の終わりに彼らの幸福度を測ると他人のために使った方が、自らのために使ったよりもずっと幸せを感じています。この便利なカードに記した5つの方法は地球を犠牲にすることはありません。炭素も含んでいないし、満足を得るために大量の物質を必要をすることもありません。地球を犠牲にすることなく幸せになることは可能なのです。
マーティンルーサーキングは死の間際に素晴らしい演説をしました。
「目の前には困難や問題が待ち受けているが私は何も恐れないし気にもしない私は山の頂上に立ち約束の地を見たのだから」。
彼は牧師でしたが、環境運動やビジネス社会そして政府も山の頂上に行き遠くを眺め約束の地を見る必要があります。そして皆が望む世界についての構想を抱かねばなりません。そしてそのために大いなる変革を生み出し良い方向に切り開くのです。人間は幸せを求める生き物です。5つの方法で幸せを切り開いて下さい。そのためには人々を結びつけ方向を指し示す地球幸福度指数のような道標が必要です。そうすれば皆が望む幸せが地球を破壊しない世界を作れるはずです。